大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和49年(ラ)162号 決定

抗告人 山口みどり(仮名)

相手方 林耐子(仮名) 他一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原審判を取消す。」旨の裁判を求め、その抗告理由の要旨は、「(一)本件遺産分割に先立ち、相手方、○○不動産株式会社が負担した本件土地八七六・〇四平方メートルの造成費用二八一万六、〇〇〇円のうち、右土地の二五・五パーセントにあたる公共用地拠出分に相当する造成費用七一万四、一四九円は、本件遺産分割の対象とすべき性質のものであるから、抗告人は相手方・○○不動産株式会社に対し右金員の支払を求める。(二)原審判は、本件審判手続費用として、昭和四五年四月より昭和四七年七月までの捜査費、郵便料、交通費のみしか認めなかつたが、右のほか、本件土地保全のための費用、人件費をも含めるべきであるから、抗告人は相手方林耐子に対しこれらを含めた費用の六〇分の一三の金員の支払を求める。」というものである。

二  まず、抗告人の本件審判申立の取下の効力について判断する。

家事事件については、家事審判法上、特別の規定のない限り準用される非訟事件手続法においても取下については何らの規定はないが、遺産分割審判申立事件の取下については民訴法に準じた処理を認めるのが相当である。すなわち、遺産分割審判申立事件は、全相続人のうち一人ないし数人が他を相手方として申立をするのが一般であるが、理論的には全相続人が申立人となつて遺産分割の審判を求めることができるのであつて、この種の審判の申立は、申立人の利益、目的のためだけでなく、相手方の利害をも含めた申立と理解すべきものであり、又、遺産分割審判の申立事件は、当事者間において利害が対立するのが通常である。そうだとすれば、遺産分割審判申立の取下は、民訴法二三六条を準用して相手方の同意を要するものと解するのが相当であり、又、共同申立人の場合には必要的共同訴訟に準じて他の申立人の同意をも要するというべきである。

これを本件についてみると、記録によれば、原裁判所が昭和四九年五月二八日抗告人に原審判書謄本を交付したところ、抗告人は同月二九日本件遺産分割審判申立の取下書を原裁判所に提出したこと、相手方○○不動産株式会社は、原裁判所の審判期日に出頭し審判について意見を述べており、抗告人の右申立の取下については不同意であることが認められる。そうだとすると、抗告人の本件審判申立の取下は、その効力を生じないものというべきである。

三  次に、本件遺産分割審判の申立の当否についてみると、当裁判所も右申立を原審判主文記載のとおり正当として認容すべきものと判断するが、その理由は、原審判理由第三項記載の判断説示と同一であるから、これを引用する。

四  よつて、原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 増田幸次郎 裁判官 三井喜彦 福永政彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例